「相続放棄をすれば、あの忌まわしいゴミ屋敷とは一切無関係になれる」多くの人がそう信じているかもしれません。確かに、相続放棄によって、ゴミ屋敷の所有権や片付け義務、固定資産税の支払い義務などからは法的に解放されます。しかし、ここで一つ、大きな落とし穴が存在します。それは、民法に定められた「相続放棄後の管理責任」の問題です。民法第940条第1項には、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定められています。これは、非常に分かりにくい条文ですが、簡単に言えば「あなたが相続放棄をした後、次の相続人がちゃんと管理を始めるまでは、あなたが責任を持って管理しなさい」ということです。例えば、あなたが第一順位の相続人(子)で相続放棄をした場合、次の相続順位である第二順位(親や祖父母)、第三順位(兄弟姉妹)の人が、ゴミ屋敷の管理責任を引き継ぐことになります。しかし、もし親族全員が相続放棄をして、相続人が誰もいなくなってしまった場合はどうなるのでしょうか。この場合、あなたはゴミ屋敷の管理責任から永遠に解放されない可能性があるのです。この状況を解決するためには、家庭裁判所に申し立てて「相続財産管理人」を選任してもらう必要があります。相続財産管理人は、弁護士などが選ばれ、ゴミ屋敷を売却するなどして清算手続きを行ってくれます。しかし、この選任には数十万円から百万円程度の予納金(管理人への報酬など)を裁判所に納める必要があり、その費用は原則として申し立てた人が負担することになります。相続放棄は、決して全ての責任から逃れられる魔法の杖ではありません。その後に待ち受ける可能性のある管理責任と費用負担の問題まで理解した上で、慎重に判断する必要があるのです。